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2014年01月03日

有機農業三つの神話 神話3  有機だから環境にいい

キレイゴトぬきの農業論

農業用ビニールハウス(パイプハウス)の専門店モリシタの森下幸蔵です。

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有機農業三つの神話

神話3  有機だから環境にいい

 

農水省が使っている環境保全型農業という言葉の影響もあって、有機農業と聞くと、なんとなく環境にいいというイメージがあるのではないでしょうか?しかし、環境問題というのは実に広範囲で多岐にわたります。有機農業という一つの方法論が、あらゆる側面において環境負荷が少ない、などとは言えないのです。

〈中略〉

米づくりで一番問題となるのは初期の雑草です。ほとんどの農業者は雑草対策として除草剤を使用しています。ですから、米づくりで「農薬を減らす」というのは「除草剤を減らす」ことになります。アイガモ農法などいくつかの方策がありますが、実用化されている技術の一つに紙マルチ栽培があります。

〈中略〉

紙マルチ栽培は突出して二酸化炭素の排出量が高かったのです。これは紙の製造工程で大量の二酸化炭素をだすためです。いくら田んぼでは「環境にいい」と言っても、その分のツケをよそに回しているのでは、この方法そのものが「環境にいい」とは言いづらいものがあります。

〈中略〉

環境問題ではいろいろな要素が広範囲で複雑に絡み合います。局面によって何を優先するのかを個別に検討しなくてはなりません。有機農業があるゆる場面で環境にいい、などと大雑把に言えないのです。状況や条件に応じて、科学的で精緻な議論が必要です。

そもそも有機農業とは何か

誤ったイメージが広まったせいで、有機農業の本当の良さや面白さがゆがめられている、と感じているのです。

〈中略〉

僕は有機農業を、「生き物の仕組みを生かす農業」と定義しています。最近では植物工場のように、生き物の仕組みに頼らないタイプの農業技術も開発されていますが、有機農業では自然の仕組みにできるだけ逆らわず、生き物、特に土の微生物の力を生かすことを重視します。このような考え方は、ヨーロッパではビオ農法などと呼ばれています(アメリカではオーガニックという言葉を使う)。日本語では生物学的農法と訳されていますが、「有機」よりもビオ(Bio=「生」「生命」)という言葉の方が僕の言っている「生き物の仕組みを生かす」を率直に表現してしっくりきます。

〈中略〉

生き物は単独では生きられません。動物と植物、植物同士、植物と土の中の微生物はそれぞれ互いに影響し合い、共生しています。たとえば土壌微生物の中には、植物の根に棲み付き、根から炭水化物をもらいながら、土壌から養分を取り込んで根に供給しているものがいます。弱肉強食の単純な力関係だけが自然の摂理ではありません。無数の生き物が相互に作用しながら、複雑なネットワークを形成して生態系全体を強く豊かにしているのです。それぞれの生き物が持つ機能、それが全体でまわるシステム、これらを積極的に生かそうというのが有機農業の考え方です。

土と植物の関係はまだ分かっていない事も多いのですが、知れば知るほどそれがいかに上手くできているかに感心します。そのシステムの、単純なようで複雑、脆いようで強いさまに驚かされます。そうした生き物のしたたかさを利用しない手はない、というのが有機農業の基本的な考え方です。

 


 

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出典【キレイゴトぬきの農業論】新潮新書 久松達央著